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2.ドーソンテクニック時代
前回のクラシカルナソロジーの概念とほぼ同時期にPeter.E.Dawsonによる咬合概念(ドーソンテクニック)が進展してきました。このドーソンテクニックの特徴は、顎関節のポジションをより生理的な位置に誘導できる可能性を少々含んでいたところです。
前回のクラシカルナソロジーの概念では、顎関節はとにかく後方へ押しやり、そこで全ての歯をかみ合わせるという普通に想像しても不自然な考え方でした。Peter.E.Dawsonはバイラテラルテクニックという下顎誘導法が提唱しました(下写真、Peter.E.Dawson著、Evaluation, diagnosis, and treatment of Occlusal Problemより転載)。関節を少々上方へ押し上げることで、関節を生理的な位置に誘導しようというテクニックです。
ここまで「下顎を誘導」という言葉が何度も使ってきましたが、何で素の状態の噛み合わせのポジションがあるのに、なんでわざわざ下顎を押したりして「誘導」を行うのでしょうか?
それは顎の正しいポジションは、どこかに「永久不変の正しいポジションが顎の骨の中にあるに違いない」という思い込みがあります。歯科医は、虫歯で歯を削るという医療行為を数多く行っているため、「変化の激しい歯には正しい情報は含んでいない」という先入観念があります。そして顎関節については治療の対象外であるため、「顎関節の中に正しいポジションが存在するに違いない」と自然に思い込むようになってきます。
結論から言うと「一部正しく、一部正しくありません。」
歯の表面は、力学的ストレス、細菌学的ストレス、生化学的ストレス、などの種々の外力により変化をします。顎関節の形態も過剰な力を受け続けますと変形や成長発育不足を起こします。従って顎関節も生涯不変の組織ではないといえます。
クラシカルナソロジーのように片手で下顎を押そうと、ドーソンテクニックで両手で誘導しようと、たったそれだけのことで顎関節を「生理学的なポジション」誘導することは、到底不可能です。
全ての組織は、周辺環境の状況を集めるセンサーである神経の末端が設置されおり、それらの情報を脳中枢が判断し抹消の組織が機能させています。全ての組織が、このようなコントロール下で機能しているので、「押す行為」「誘導する行為」には全く生理学的意味は存在しません。
ドーソンの提唱する上顎前歯の形態や奥歯がすれ違った歯並びの対処法などは、かなり人工的なイメージです。正常な形態からはかけ離れているので、生体が長年にわたって人工臓器の一部として機能するかはかなり疑わしいと思われます。
ドーソンテクニックを学ぼうとする先生達は、クラシカルナソロジーの場合と同様に元々小数派でかなりの研究熱心な先生達です。しかし生理学的意味がないこのテクニックを実際の臨床で適用することは少なくなりました。
ドーソンテクニックの功績は、下顎頭の位置すべきポジションは前上方位置であることを後世の人々に伝えたという点です。それまで水平的最後方という平面的な概念から、前上方方向へと概念の広がりを見せました。初めて下顎を前に出す治療もあり得ることをドクター達は知り、臨床に適用を始めました。結果として、クラシカルナソロジーだけでは解決できなかった理論と実際の乖離が小さくなりました。